第八章(二) 『皇帝文化』

 

唐代“開元のルネッサンス”(再生の意)は政治、経済、文化、その他あらゆる面で取り組

まれました

それは則天武后の政治色を一掃したり、仏先道後を復す事などの政治面だけではありませ

とりわけ文化面で強力に取り組まれたのです

その基は神噐・太極「寶」であったのです

易・陰陽・五行思想・漢数術。

古代の列仙

広成子・黄帝・西王母・東王父・老子・荘子・更に遡る、農神炎帝、崑崙山

の神堪坏(かんぱい)黄河の神・馮夷(ふうい)泰山の神・肩吾(けんご)北方の帝・顓

頊(せんぎょく)北海の神・禺強、また彭祖・傅説・伏義、その他、歴史的考証が徹底し

てなされました

また、則天文字の廃止に伴い、本書で指摘した最大画数の二文字に代表されるよう

に、未放置された四文字の漢字その他多くの新たな漢字が創出されました

あきらかに文字文化全体の見直し作業が行なわれたのです

またインドから天文学者を招き、それまでの中国の占星術とのすり合わせも行なわれまし

さらに「白澤」「方円の器」「天書」「天円地方」等々。

史書や文献には明確に記述されませんが、神噐・太極「寶」の考証が起爆剤となり、

漢文化のあらゆる整理、検証がなされたのです

近年発掘された揚子江上流、湖南長沙の「馬王堆」の墓から発掘された                                

帛画などを見ると「寶」に秘められた思想源流そのものです




本書は一般向けの改定本です

私の様な素人の門外漢ではなく専門の諸先生が「寶」を更に深く考証されればされる程、

「寶」を通して
古代の中国文明が鮮明に浮き出てくる筈です

「寶」は唐代以前の歴史文化を観るハッブル望遠鏡です

まさに「寶」の考証で確立された皇帝文化は以後の中国文化の主柱となったのです

その主柱は神噐・太極「寶」に天隠された「易」と「陰陽五行思想」その太上に燦然と輝

く「太極の光」です

全ては『老子道徳教』を編纂し玄宗皇帝の終生の師となった司馬承禎が、陰のチームリー

ダーです

私はこの太極「寶」が以後の中国史に果たした役割を考える時、中国「皇帝文化」が確立

された大本と考えるのであります

そして開元~天寶元年までの時代を「開元のルネッサンス」と位置づけています

写真②は中国「故宮」の「大和殿」です

「故宮」は「明」「清」両朝の天子の居城で「紫禁城」と呼ばれて、現在は博物院に

なっているそうです。                         
                   


大和殿「故宮博物院」(文献108より転載)


そして図③は故宮の全体地図です

故宮は、この「開元のルネッサンス」で確立された「皇帝文化」の宝庫です

この図④は「故宮」の奥の院のそのまた奥にある「交泰殿」で、明清の天子の宝、

傳国の
宝印が安置された、最重要建物と聞きます

写真④はその「交泰殿」です


「故宮博物館」(文献108より転載)

 


④交泰殿 寶座

「故宮博物館」(文献108より転載)

 

上記「交泰殿」の天子の玉座の壇上両側に七宝焼の獅子が二頭、天子皇帝を警護しており

ます

聞くところによると、この獅子を「天子諫言の獅子」と呼称するそうです

これは司馬承禎尊師を玄宗皇帝が「師」と仰ぎ、師亡き後、獅子「白澤」に秘められた

「天子」の「道」を尊師の教えとして常に彼を戒めた、それがこの「天子諫言の獅子」と

なって今日に伝わるのです

『大漢和辞典』によると「師」の文字の語訳に獅子の「獅」に通ずるとあります

「師子」は「獅子」に同じとあります

諸橋先生の語訳は完全を欠く、不確実な語に一線画くされたのであろう

②の大和殿、その写真⑤の天井を見ると、縦横の升目が9×1199、中心の大きい升目は「一」

で、残った升目の数は50です

まさに「寶」の韻文「一」「五」「九」です

この「故宮博物院」全体が唐代開元のルネッサンスに考証された皇帝文化の宝庫です

  ⑤                                ⑥
          

⑥は清代に再建と聞く、「祈年殿」天檀、これも易と陰陽五行思想、「寶」の宝庫です

 

図⑥

上の図は「城隍神」を祀る霊符であるといいます

この霊符には、道教神の三清・日・月、星・五雷神そして重なって分かりにくいのですが

「太上老君勅令」と朱書きされてあるそうです

全て「寶」の韻文が図象化してあります

これは台湾の年間何万人も訪れる道教の寺院に置かれる霊符であるとのことです

神噐「寶」の隠秘の勅令で天隠された韻文を後世の道士達が、必死に推考したのであろう

霊符の文言と図象は「寶」九文字程の完璧はありません

 

著書『聖獣伝説』(文献71)を観ると唐代の獅子文物が、それ以前にもまして多様性を帯び

た事が読み取れます

聖獣の姿の獅子化です

余談ですが、年間最低50億本以上生産販売する(本社に問い合わせる)某ビール会社の商標

には鹿を基本形にする「麒麟」が描かれてあります

その容貌は殆ど麒麟より獅子に近い神獣です。これも唐代の「寶」の影響を受けて獅子化

しているのであります

即ち貴方の晩酌の手元まで「寶」の光が届いているのです

また神社で見かける 狛犬には角が献じてあります

犬に角を献じ神獣としたのでしょう

「狛」の漢字を分けると「白」と「獣」の偏です

「白い獣」と一対の「獅子」が合体すれば「寶」の守護神、獅子「白澤」となります

私の住む氷見市は、獅子舞が盛んで昔は100ケ村で五穀豊穣の獅子舞が勇壮に舞われまし

まさに日本一の獅子舞のメッカです。

近年関係者の努力により、獅子舞ミュージアムが建設され、定期的に獅子舞の競演会が開

かれます

唐代「寶」による皇帝文化の威光は、約1300年経った今も形を変えながらも、漢文化圏を

照らしているのです

    

                                         平成19312