第三章(五)『開元のシンボル「獅子」』

 

さて中国皇帝の歴代王朝のシンボルは龍です

しかし何故、玄宗皇帝はこの「寶」の台座に龍ではなく獅子としたか?!まずその疑問に

ついて、答えておかねばなりません

この本を読もうと手にされた方は多分、玄宗皇帝の祖母、則天武后のことはご承知のこと

と思います

則天武后は唐朝を乗っ取り、周を建国した中国歴代王朝ただ一人の女帝です

開元時代の黄金期の下地を造り、天下泰平の世を築いた武后ではあるが唐朝にとっては、

悪夢の則天時代です

しかも武后は唐朝の皇宗であった道教にかわり仏教を第一等といたしました

いわゆる仏先道後です

玄宗はその武后をクーデターで幽閉し、唐朝に復しました

そして年号を「開元」と改め、新しい時代が来た事を天下万民に宣言する

その新時代の象徴が“獅子”なのです

勿論、則天武后が第一等として推し進めた仏教に代わり、道教を再び皇宗として第一等に

復したことは言うまでもありません

則天武后のために、多くの忌まわしい血が流れた

赤と黒を溶かした怨念の血でありました

武后の独裁、まさに恐怖政治、暗黒の時代でした

皇帝に即位した玄宗は、武后時代の政治と決別の決意をした

天下万民に道教の始祖、黄帝の再来として公明正大な善政を執り行う事を宣言する

「寶」の紐は、有徳の皇帝の御世に言葉を話す、あの神獣「白澤」であることは申すまで

もありません

新時代の到来、それまでの皇帝の象徴、龍に代わり獅子「白澤」が唐朝のシンボルとなっ

たのです

以後1300年間、獅子は中国民衆に親しまれ今日の獅子文化が花開くのです

中国が今でも眠れる獅子と言われる由来はこの「寶」が基です

遣唐使たちがもたらした正倉院文物の中の獅子も龍の数を完全に駆逐しています

全てはこの神器「寶」の所産なのです

平成19228

   

正倉院寶物   紫壇金鈿柄香炉                      獅子面