第4章4・「寶」の「玉」天地人


 この「寶」の印全体は、「白」の色を基調に焼き上げてあります。

 『大漢和』に、「白土」とは陶土を指し「天下大吉」(『後漢書・皇甫嵩傳』)を指すとい

う。

 しかし、その色調を注意深く観ると、第1章2で、既に触れましたが、この微妙な三色

の色、即ち「天地人」の三彩に更に驚くべき秘め事が隠されてあるのが観えてるのです。

 この白磁に自然かつ微妙な三彩が条件付けられ、陶工達の想像できない苦闘が観えてく

るのです。

 この驚くべき「寶」の、さらなる秘密を次に説明いたします。

(1)『天』

・紐、獅子の部分は、寸尺をもって計れない天上界です。天上界を象徴する色は、洋の東

西を問わず白と想像されます。

・神を守護する獅子は、伝説に白澤と呼ばれ、白い毛を生やす獅子です。 開祖・老子は

伯陽という字名で“皓首”つまり首の箇所が白い色をしていたと伝わって
います。即ち白は、

老子を象徴する色でもあります。

司馬承禎の號は白雲子と称し、仙人も白の色で象徴されます。

(2)『地』

・一番下、大地にあたる印面の色は黄色です。

・老子は又、黄色い顔の人で“黄面”であったといわれます。

(『大漢和』「老子」“黄面晧首”より)

・黄は老子と共に道教開祖の二聖の一人「黄帝」の色、母なる大地の色・黄河の色です。

・科拳の合格札など“勅令”の「黄榜」は黄色で、王権と神授のシンボル“御用色”です。

・「寶」と同じ天から降臨するものとされる「天書」は光る文字、黄金色で書かれてあったと言

われます。

・護国豊饒を悲願する天子の祭礼、社稷の壇に五色土を供えます。

 その中央は黄土であり、「寶」は神噐で太極を創造したものですから、当然宇宙の中心で

あり天下・印面の中央土は黄色が絶対の条件です。

(3)『人』

・印台側面の色は・天上界の白と印面の薄い黄色との中間色、薄く淡い「人肌色」です。

・その天上界である獅子との色の区別はほとんど微妙で、自然かつ違和感が全くありませ

ん。

・印の底は地であり、紐は天で、印の高さの寸法空間は天地の空間です。そこに、日々稼

働し生きるのは人間です。漢字研究の先生方に、お叱りを受けそうですが、「天」の文字・

横二本は陰陽に別れた天と地、その中間面に嵌入、窯変したところに、自然の神の恵みを

受けた人間が助け合って生活する、その「人」の色を焼き上げたものと推定するのです。


以上(1)・(2)・(3)で「天地人」唐白磁・三彩の完成です。

 固く焼き締まった「寶」は、自然の玉と錯覚する程の見事な焼き上げです。

 「大漢和」に「王」の文字は古くは「玉」に作るとあります。

又「王」の文字の横「三画」は天・地・人を象徴するもので、その中心を垂直に貫く縦一

画こそ天子であり真の王者を現したものです(『春秋繁露』王道通三)。王の王、皇帝の神

噐「寶」は、輝くばかりの艷肌であり、正に“至玉”を焼き上げた「寶」ものです。

 この「寶」の玉、三彩は「三才」の天地人の色を焼き上げたものです。「寶」は、今に伝

わる文房秘宝の「田白」「田黄」「白芙蓉」を彷彿するものです。

 まさに、陶工達の壮絶な戦いと祈りが観えるのです。