第3章7・日月信仰と北斗・北極星




 『大漢和』に「日月の相」は“天子となる相”とあります。「日」「月」を戴く「寶」の

“印面”は、まさに篆刻絵画で、唐朝の基を開く、開元の天子「玄宗皇帝」、王者の御姿、

似顔絵が描かれてあります。

 道教の身体観、図4九文字が人体の九孔、中央5文字と日界月界の4文字に□・□の2

象を合わせて五臓六腑であろうか。

 また『大漢和』を見ると、「日月旗」は“七星之文”図5“北斗星”とあります。即ち、

第1章6「印台と印字の秘め事」(7)で解説したとおり、中央五文字と日月を囲んだ□の

2星を合わせると北斗七星が星座する。

 まさに日月を囲んだ、星○を象した□の意味が、第1章7(4)で解明した28宿以外、

隠された篆象の秘密が現れるのです。

 日月に界の裾を九畳篆で飾り、玄宗皇帝の両側に「日月旗」旗めく。

 まさに、中央「老」に秘めた“北極星”と“七星之文”北斗の星に“日月旗”です。

 シャーマニズムの日月信仰は日本はもとより、太古から世界各地にあったであろうが、

『中国文化故事物語』(文献25)に唐代、中国西南地方の最大部続イ族が日月信仰を大きく

発展させたとあります。

 日月は陰陽思想の象徴です。

 「寶」には、この「陰陽思想」と中央五文字・木火土金水の「五行思想」この二大思想

の哲理が秘められてあります。

 図1は、伏犠の手に「太陽」、女?の手に「月」、図2は日月から太極への変化図であり

ます。

 「寶」はこの完成図でもあります。

 ここにも、「寶」を照らす唐代の宝影が観れるのです。

 三章は「七星之文」として7項とします。

 さて、これから述べる「寶」の驚異は、本書最終局面で発見した、漢宇宙の神秘で、こ

の項(爻)印文“三行体”に当たる三章、北斗七星に当たる7爻に配当した「太極」の神

秘です。

 既に、解説した通り、「寶」の神秘は果てしない静寂の闇に“天隠”されております。そ

して第1章11「老の文字と印の一考察」で述べた、中央「老」は六画で“玄”なる所、暗

くて深い宇宙の彼方を指します。

 また、第112「道教思想と印の一考察」で述べたように、漢大宇宙は、印面の表裏、

確認不可能な印内宇宙“無”の闇に存在することを述べました。そして第2章2で「寶」

は、神殿深く納められた“蔵而不用”決して押印される事のない神噐と述べました。

 これらの神秘が暗合する、漢宇宙は何を物語るのかが、絶えず私の意識の底にありました。

 まさに、最後まで発見が遅れた、陰陽表裏の神秘、最も暗い闇は“夜明け前の闇”その

ブラックホールとも言うべき“落とし穴”この謎を解明してくれたのが、この章“日月と

北斗”の七爻です。

 既に示した通り、中央五文字と日月を囲む□の2星とあわせ、北斗七星で形状も形どる。

印面の日月の方位、日は西で月は東です。

 さすれば、当然印面は、ほのかな日の光と、光々とした月明りが照る星空、中天「老」の北

極星と重なる北斗七星が輝く夜空です。

 “蔵而不用”の神噐は、昼なを暗い、荘厳な神殿の玉座に安置されてありました。印面

は当然、神殿に安置されるべく、深々とした満天の星空、深い夜の静寂、玄なる宇宙を彫

り上げてあります。

 玄宗皇帝が、この「蔵而不用」の「寶」陰宇宙を押印すると、どの様な宇宙が展開され

るのか天才承禎に説明を求めた筈であります。

・・・・「日」は180度、軌道を描き、東に移動し、北斗も陰陽、四季に合わせ、軌道

を描き斗の位置を変える。

・・・・印面宇宙、中央中天に星座(正座)する、「老」は北極星です。

日月は勿論、すべての星は季節とともに周還し移動しても、北極星は陰陽表裏の瞬きを

するだけで、不動の位置で中天に正座している。

北斗は夜空の大時計、天帝の“帝車”です。

すべて天地自然の運行通りであります。「寶」は昇仙への道・・・・押印は“来世への”

降臨転生です・・・。

陰凹の暗宇宙、それに瞬く陽凸の星々は、九畳篆で印面の余白を埋め尽くし、今も満天

の星空です。

夜明け前の夜の闇は、さらに深い夜を呈します。

陰陽は表裏一体、神噐「寶」の面は、天下の夜明け示し、“開元の治世”に精魂を傾け

る時節を北極星の位置は示しております。

承禎は神噐「寶」完成こそ、唐朝の黄金期、天寶の幕開けと、言上したであろう。