10・獅子「白澤」

 

 魅惑に満ちた、この獅子の陶印と出会って、早14年が経つであろう。
 歳月すらも朧気になる程、果てしない日々でり、またつい数日の様な年月であった。
 私に命脈を託された鬼才、吉田翁は平成12年の今年1月、94歳で天寿をまっとうされた。
 「寶」本完成の昨年9月5日より日本国総理以下、政府閣僚、財界、NHK経営委員会・各役員・愛知万博会長以下役員・著名人そして日本を代表する美術館・博物館関係者・学者その他各界に宛てた★(43)『訴状』を、来る日も来る日も差し出した。

 総勢は130名余である。
 “世に人はいるか”
 獅子吠える、まさに“天と地”に叫ぶ日々であった。
 そして前・鈴木愛知県知事の推挙により愛知万博森推進局長から届いた書状を翁の棺に捧げる事が出来た。

 14年前、私に命脈を託した翁のお宅の窓べから何とも言えぬ柔らかな陽射が差し込み、そして床の間、正面中央に、この獅子が、鎮座していた。
 部屋の空気は、霊気と化し、窓べに差し込む陽射しも神々しく、翁の顔が静かに微笑んでいたのを今も鮮やかに浮かんで来る。
 曾祖父・祖父・父と四代にわたる血であろう、若き頃より骨董品が好きで、古美術品は私の生活に自然に溶け込んでいた。
 観る目だけは、多少の自惚れもあった。
 しかし、この獅子は、これまでの陶磁器とは、明らかに違っていた。
 まさに百獣の王、獅子その王者の威厳と風格を備え、しかも神秘としか言い様のない不思議な焼き物が床の間中央に鎮座していた。
 一時の静寂が過ぎ、翁に許しを貰い、その獅子を恐る恐る手の平に載せ、息を殺し注意深く、黙考の中で拝観した。
 手のひらに載る程の、小さな焼き物であるが、これまで経験した事のないズシリとした重みが感じられ、表面の艶肌は、まるで玉や大理石を彷彿させる艶やかさであった。
 そして手平にのる小さい焼き物でありながら、これまでの、陶磁器と違う、質量感と微妙な温度の違いに、この陶磁器秘める、計り知れない歴史の重みが、直感的にズシリと感じた。          
 そして獅子の頭は、ゴツゴツとまるで獅子の頭蓋骨を直接撫でているような感じで、しかも滑らかな獅子頭であった。
 不思議な事に、この獅子には確かに半月状の羊か牛の角の様なものが生えている。
 しかも、尾は獅子の尾と少し違い馬の尾の様であった。
 なんと言っても、獅子の顔が、中国古代の神話に出てくるような神秘的異相でまさに、喉腹で唸っているような表情であった。
 そして、獅子の歯の本数は、五行と皇帝の数位、五本であった。
 後に、この獅子が中国古代の聖獣・獅子「白澤」であることが判明した。 そしてこの獅子「白澤」こそ、唐朝の宗廟・太微宮の神殿に鎮座し、神噐・太極を鎮護する守護神、獅子王であった。
 そして、この獅子の造型にも、想像を絶する、道教開祖「黄帝」に因む、▲獅子王「白澤」の秘密が天隠されてあった。
 7年に及ぶ、研究・解明の結果この獅子は、日本国に伝わる狛犬・獅子舞のルーツであり、東南アジア全域に分布する▲『獅子文化』の基であった。 まさに、この獅子は「万里の長城」を遥かに凌駕し、今日現在も東南アジア全域を照らし、人々の中に生き続けているのである。
 いずれ、貴方は、この驚愕の▼H獅子王「白澤」の天に隠された神秘を知る事になります。

平成12年4月24日